注意!!今回の記事にはネタバレが含まれます。本作を未読の方でこれから読もうと考えられている方は、読了後に本記事をお読みください。
妖精作戦シリーズの紹介もついに最終巻の「ラスト・レター」です。
前作「カーニバル・ナイト」のラストでSCFにさらわれてしまったノブを取り返そうと、榊達がいろいろと画策を始めるところから話は始まります。
前半の早い段階で、ノブに呼び寄せられる形で榊達とノブは再会を果たすことができるのですが、当然、そこでめでたしめでたしとはいかず、またまた赤道直下の無人島から、大型潜水艦でのドタバタを経て、再び高校生たちは宇宙へと上がっていってしまうのです。
しかし、1巻の時と違うのは、物語がシリアス度を増していきます。
正式に地球側へ宣戦布告した宇宙人、探偵 平沢のスポンサーと占い師の幹本沙織の正体。
一方、衛星軌道上に浮かぶSCFの宇宙ステーション「ブルー・サーチ」で、例によって榊達は地球への帰還を試みようとあれこれと企みます。
高校生らしい、後先考えずにとりあえず突っ走る姿や沖田とつばさの騒々しい掛け合いなど、いつものように話が進んでいく中で、一人ノブだけがあきらめにも似た空気を発し始めます。
当然、榊はそんなノブの気配を敏感に感じ取っています。
ブルーサーチの中を沖田達とはぐれ、二人で逃げ込んだ先でSCFからの逃亡生活に疲れたノブが弱音を漏らします。
「あたしが普通の女の子だったらよかったのに」と
それを聞いた榊は「お前が超能力者だから、オレと会えたんだぜ」と返します。
それはノブを安心させるためとかではなく、榊の本心だったのでしょう。しかし、おそらくはこの榊の言葉がノブの心を決めさせたんだと思います。
突如現れた宇宙人の戦闘機とSCFとの間で先端が開かれる中、再び沖田達と合流した榊とノブは、和紗結希の手配で緊急脱出ポッドに乗り込むことに成功します。が、ブルーサーチからポッドが切り離された瞬間、捕獲用のワイヤーによりまたまた捕まってしまいます。
そんな中、撃墜され、ポッドに突っ込んでくるUFOから沖田達を守るために能力を開放し、はじけ飛んでしまった和紗結希の姿を目の当たりにしたノブは決心します。
「もうやめる」
そして、出した答えは「自分がいなくなる」というものでした。
ノブは榊達をテレポーテーションで地球に降ろすと、自分はその力でポッドを光速にまで加速させて太陽系の外へと飛び去ってしまうのです。
このラストは当時の私にとって大きな衝撃でした。
自分たちとそう変わらない等身大の榊達が、ドタバタを繰り広げながらも最後には大団円を迎える。身勝手にも、そう信じて疑っていなかった当時の自分は、打ちのめされてしまいました。
確かに、話の後半でノブが度々感じていた、再び繰り返されるであろうSCFからの逃亡生活を考えたとき、「でも、根本的には解決はできないけど、どうするんだろう」とは薄々感じてはいました。
けれども、「それでも」というのをどこか期待をしていました。
だって、これまでも何とかしてきたじゃないか。だから今回も何とかしてくれるんだろう?と
しかし、榊たちはただの高校生でしかなかった。人よりちょっと行動力があって、ちょっと器用で、普通の高校生とはちょっとだけ規格外なだけ。
大人たちが、ましてや世界の裏で活動する巨大組織が本気になればどうとでもできる存在でしかない。
だかから結論は初めから決まっていたのです。
ノブがSCFに入るか、この世界からいなくなるか。
そんな現実を突きつけられたようなラストに「そんなのないだろぉ~!」と当時は憤りの混じった強い絶望感を味わいましたし、今でも胸の奥にしこりとなって残っています。
それまでの榊や沖田や真田たちの、若さから溢れ出る青春の輝きがあまりにも眩しかっただけに・・・
ラスト・レターの結末には賛否が分かれると思います。
安易なご都合主義によるハッピーエンドではなく、かといって絶望的なバッドエンドでもない。
この世界のままならなさを味あわされるようなもやもやとした結末。
でも、このラストであるがゆえに、僕たちはどこまでも榊たちに共感を覚え、自分の姿を重ねわせることによって、榊たちの味わった苦さを共有することができた。
だからこそ、今この年になっても、読み返すたびに胸をえぐられるような痛みを感じるのだと思います。
フィクションでありながらも、ある意味で徹底的にリアリズムを追求した妖精作戦は、刊行当時に榊たちと同じような世代の若者たちにとって、間違いなく「現実」だったのではないかと思います。
青春の輝きと苦さをリアルに感じさせてくれる稀有な青春活劇「妖精作戦」、今の若い子たちにも読んでもらって感想を聞いてみたいですね。
ちなみに、私は妖精作戦を読んで以降、極度の「ハッピーエンド症候群」を患ってしまったため、現在手元に残っている小説やDVDは、ほぼ全てがハッピーエンドものとなっています。
ではでは
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