笹本祐一というSF作家を知っていますか?
アニメファンの方であれば、2012年にアニメ化された「モーレツ宇宙海賊」の原作者、ロケットや宇宙開発が好きな方であれば、いわゆる「ホリエモンロケット」を作っている「インターステラテクノロジズ」で広報を担当している人と言えばピンとくるかもしれません。
ライトなノリのキャラクターとは裏腹に、綿密に考えられた設定のもと、軽快なテンポで繰り広げられるストーリーを得意とするSF作家です。
その笹本祐一のデビュー作がこの「妖精作戦」です。
物語は主人公の榊裕(さかき ひろし)が早朝の新宿駅で、切符を買うのに戸惑っていた本作のヒロイン、小牧ノブ(こまき のぶ)に声を掛けるところから始まります。
ノブは榊の通う私立高校の女子部に編入してくる転校生です。そしてその正体は超能力者。ただし自由にその能力を発揮できるわけではなく、突発的なピンチの時などに自己防衛本能の一つとして無意識に発動するというものです。
そして、この能力のためSCF(Sol Cosmic Force=太陽系宇宙軍)に狙われており、榊と知り合って早々にSCFにさらわれてしまったノブを助けるため、同級生の沖田、真田、つばさ、そこに私立探偵の平沢も加わって太平洋の秘密基地から、衛星軌道、果ては月にまで及ぶノブの救出劇が繰り広げられていくというものです。
謎の組織に狙われている超能力者の転校生(美少女)を助けるため、高校生たちが奮闘する!という、なんというかまあ、ある意味コテコテの設定ですが、この小説は有川ひろや谷川流、小川一水等、おそらくは私と同年代の作家たち、そして私にも大きな衝撃を与えました。
その大きな理由はキャラ設定にあるのではないかと考えます。
主人公の榊はいたって普通の映画好きな高校二年生です。とりたてて身体能力が高いわけでもなく、学力も普通。もちろん何か特殊な能力を持つわけでもなく、物語後半で秘められた能力が発現するわけでもない、普通オブ普通の高校生。
榊を助ける同級生の沖田も機械いじりが得意で行動力もあり天才肌ではあるけれど、これも探せば現実世界にもいるレベル。自称忍者の末裔という真田も多少身体能力が高いというだけで、やっぱり普通の男子高校生です。
さすがに普通の高校生だけでは、超国家組織であるSCF相手ではどうにもならないので、裏世界では名の通ったエージェントである平沢が私立探偵として彼らのサポート役として登場しますが、物語の主役はあくまで榊ら高校生です。
まるっきり普通の、探せば見つかるような能力しか持たない高校生たちが、ある日突然、非日常に巻き込まれながらも高校生特有のノリと勢い、根拠不明の謎の自信と行動力でもって巨大組織にさらわれた美少女を助けるために奮闘する。
当時、榊達よりは少し年下だった私ですが、何の違和感もなく彼らに自分の姿を重ね合わせ、物語に没頭していきました。
何度も何度も読み返し、そのたびに胸を躍らせていたものです。
最後にとんでもない衝撃を与えられることも知らないままに・・・
本作は「妖精作戦」シリーズの第1巻めです。
当時大学生だった笹本先生の若さと勢いを映し出したような、ハイスピードなストーリー展開が気持ち良い青春SFです。
今でこそ学園系のSFは珍しいものではなくなりましたが、その原点ともいえる「現役最古のラノベ作家」のデビュー作、ARIELと違い(ARIELが悪い作品なわけではなく、巻数が多すぎるだけだと思います)版を重ね、出版社が変わりつつもまだ普通に店頭で買えますので、SF好きで未読の方はぜひ手に取ってみてほしいです。
なお、記事内画像は創元SF版、アイキャッチ画像は朝日ソノラマの新装版(白背)です。緑背の初版は行方不明になってしまいました(涙)
ではでは
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