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さあ、海賊の時間だ!「星のダンスを見においで」著者:笹本祐一〈朝日ソノラマ文庫/創元SF文庫〉

港町・横須賀。女子高生の冬月唯佳(とつきゆか)がよく顔を出す”どぶ板通り”の骨董品店のジャックには、大いに謎めいたところがある。ベトナム帰りの元外人部隊と噂される風貌、ガラクタの山の中の精緻なメカ、何よりもめったに店を開かない商売不熱心さ。だが、さすがの唯佳も、ジャックが”笑う大海賊の秘宝”の秘密を握って身を潜める凄腕の宇宙海賊であろうとは、思いもしなかった。
(朝日ソノラマ版第1巻より)

さあ、海賊の時間だ!

このフレーズで真っ先に思い浮かぶとしたら「ミニスカ宇宙海賊(モーレツ宇宙海賊)」の方ではないかと思います。

たしかに本作でも主人公は女子高生ですけれども、趣はまったく違っています。

主人公の冬月唯佳は、本当にどこにでもいるような普通の女子高生です。普通の家庭に生まれ、普通の高校に通う普通の女子高生。

そんな彼女が、海賊船ヴァイパーの船長であるジャックことジャンピング・ジャック・フラッシュと知り合いだったばっかりに、伝説の大海賊が残したと言われる「笑う大海賊の秘宝」をめぐる争奪戦に巻き込まれて行きます。

そう、完全に巻き込まれ。

特に前編にあたる1巻では、たまたまジャックと行動を共にしていたがために、なりゆきで宇宙船の操縦をさせらるわ空中戦を体験させられる羽目になるわ、挙句の果てにジャックとの関係を疑われて横須賀市内での壮絶な鬼ごっこを経て誘拐されてしまったりと、ロクな目に遭いません。

しかし、そんなドタバタの中で「生の宇宙」触れるうちに唯佳の心は宇宙へと捕われていきます。

創元SF版1巻のラスト(ソノラマ版では2巻冒頭)で「あたしたちが平和な暮らしを取り戻すには、これしかない」、と笑う大海賊の秘宝伝説にけりをつけるための航海に唯佳がついていく理由を語っていますが、これは唯佳が自分が宇宙に出たいがための理由付けだったのではないかと思います。

ジャックはそんな唯佳の逞しさやそれまでの行動から見えるハラの座り方、対応力、行動力というものを見て、唯佳を見習いとして連れていくことに決めたのではないでしょうか。

続いて後半戦。2巻に入ると舞台はいよいよ宇宙へと移ります。

ここからは笹本先生得意の宇宙空間での戦闘描写が増えてきます。

笹本先生の戦闘描写でイイのはきちんと手順を踏んでいるところ。索敵→識別→欺瞞(電子戦)→直接戦闘と、実際の戦闘状況で行うであろう一連の流れをしっかりと描写していきます。

ともすれば退屈になりがちな直接戦闘に至るまでの過程も、スピーディな描写と会話劇でテンポよく進んでいくところがさすがです。

そして、後半もう一つの見どころは唯佳の成長っぷりではないかと思います。

見習い船員から始まって初めての実戦。2度目の実戦ではジャックにヴァイパーを任され船長デビュー。沈没寸前まで追い込まれながらも辛くも逃げ延びた後は、負傷したジャックの代わりにヴァイパー修理の陣頭指揮を執るまでになります。そして、連合艦隊との最終決戦では・・・

その辺はぜひご自分の目で確認してほしいと思います。

また、合版本のソノラマノベルズ版と創元SF版は、オリジナルの朝日ソノラマ版から大幅な加筆修正が加えられています。

笹本先生曰く「本来あるべきシーンを書き足しただけ」とのことですが、朝日ソノラマ版を持っている方は読み比べてみるのも面白いと思います。

唯佳の電話がコードレスホンから携帯に変わっても、面白さは変わらない女子高生スペースオペラ。是非お楽しみください!

 

ではでは

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