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ここ掘れワンワン「裏山の宇宙船」著者:笹本祐一〈朝日ソノラマ文庫/創元SF文庫〉

高校生だったころの夏休み、あなたは何をしていましたか?

「裏山の宇宙船」は夏休みの高校生たちが経験する、宇宙人とのファーストコンタクトを題材としたSF小説です。

舞台となるのは山間にある、河奈見町というとある田舎町です。

その河奈見町にある高山高校で、総員3名、部室なしの弱小同好会、民族伝承研究会の会長、佐貫文(さぬきふみ)は同好会の存続に燃えていた。

現状のままでは消滅の危機にある民族伝承研究会の実績作りのために、文化祭で発表する研究テーマとして掲げたのは、河奈見町に唯一伝わる伝承「天人伝説」で天女が乗ってきたという岩船を探し出すというものだった(どどーん)!

というノリで文は企画をブチ上げますが、文以外の会員二人(同級生の昇介(しょうすけ)と晶(あきら))+一名(OBの一郎先輩)はとりあってくれません。このあたりは、普通のごく一般的な高校生としては当たり前の反応で、いかにも等身大の若者を描く笹本先生らしいところです。

しかし、期末試験最終日、台風一過の早朝に文の飼い犬である伝四郎の催促に根負けして、散歩に出たところから物語は動き始めます。

文の家の裏山に「逆さ登りの坂」と呼ばれる、上り坂なのに体が軽く感じられるという不思議な山道があり、その山道が前日の台風で土砂崩れを起こし、崩れた斜面の中から謎の黒い物体が顔をのぞかせていたのです。

にわかに現実味を帯びてきた天女の岩船の存在に、企画段階では乗り気でなかった昇介たちも動き始めます。

それからは、測量や発掘調査のまねごとをしたり、宇宙船の入り口を発見したり、宇宙船を先輩のバイクで起動したり、河奈見町を停電に陥れたり、中途半端に覚醒して瀕死になった宇宙人を介抱したり、言葉が通じない宇宙人相手にコミュニケーションを図ろうとしたり、電気泥棒をしたり、挙句に山を吹き飛ばしたりと「次にコイツらは何をやらかすつもりなんだ?」とワクワクさせられます。

普通の高校生である文や昇介たちが、身近ではないけれどもツテやコネがあればなんとか手に入れられるようなアイテムを駆使して、一つひとつイベントをクリアしていくのも、フィクションでありながらもリアリティーを感じさせられます。

それに加えてリアリティーを増している設定が、宇宙人の宇宙船が「超光速航行はできないけれども、長期間にわたり星間空間を航行するためにはどのような機能を備えているべきか?」についてとても深く考証したうえで、非常に融通の利く設計思想のもと建造されたものとなっていることです。

これによって、当時(1980年代後半~1990年代前半)の田舎の高校生たちがギリ手に入れられるもので「なんとか起動までは持っていけるけど操縦はムリ」という絶妙な状況が生まれ、安易なご都合主義的なストーリー展開にならないバランス感が盛り込まれています。

妖精作戦とはまた違った「普通の高校生」たちが繰り広げる夏休みSF小説、是非読んでみてほしいと思います。

ちなみに、初版の朝日ソノラマ版、合版本のソノラマノベルズ版、再再版の創元SF文庫版とありますが、初版の朝日ソノラマ版の挿絵が一番雰囲気がマッチしていると思います。絶版本ではありますが、まだまだ中古市場には出回ってますので(しかも格安!)、古かったり茶色に変色しててもかまわないという方は、そちらがおススメです。

ついでに加えると、合版本のソノラマノベルズ版には特別付録として、「河奈見町天人化け猫伝説」とちょっとした後日談的なものも収録されているので、こちらもおススメです。

ではでは

 

 

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